「文化財登録制度」のきほん

2020年11月、国の文化審議会は、宮城県栗原市の旧高橋家住宅(風の沢ミュージアム)を登録有形文化財(建造物)として登録するよう文部科学大臣に答申しました。これにより文化財登録原簿への登録が行われ、官報告示をもって正式登録となります。
建築物が文化財として登録に至るまでには、建築物の価値だけではなく、関わる人の理解や連携・協力が不可欠です。
ここでは、旧高橋家住宅(風の沢ミュージアム)の文化財登録にあたって、調査・申請に携わった古民家びと代表の早川欣哉が、「文化財登録制度」の基本について、わかりやすくお伝えします。

登録有形文化財と重要文化財や国宝の違いは何?

文化庁が発行している「登録有形文化財建造物のご案内」というパンフレットの中に、次の文章があります。
「登録有形文化財建造物は、50年を経過した歴史的建造物のうち、一定の評価を得たものを文化財として登録し、届出制というゆるやかな規制を通じて保存が図られ、活用が促されています。」

まず、この文中の、「ゆるやかな」という部分に注目してください。その理由を文化財保護の体系図を見ながら確認しましょう。
※文化財保護の体系図(平成22年9月社団法人日本建築士会連合会 専門家育成のための研修テキスト 82ページより抜粋/文化庁のウェブサイトにも掲載されています。)

文化財は、次のように、大きく8種類に分類されています。
・有形文化財
・無形文化財
・民俗文化財
・記念物
・文化的景観
・伝統的建造物群
・文化財の保存技術
・埋蔵文化財

そのうち、「有形文化財」は、さらに以下のように分類されます。

・有形文化財
-[指定]-重要文化財-[指定]-国宝
-[登録]-登録有形文化財 (建造物と美術工芸品がある)

この図からわかるのは、重要文化財や国宝(※)は国から「指定」されるのに対し、登録有形文化財は「登録」されるという違いがあることです。登録有形文化財は、活用を重んずる文化財として位置付けられているのです。また、指定有形文化財には、市町村によって指定された有形文化財もあるのですが、文化財の価値としては、市町村指定有形文化財の方が、国の登録有形文化財よりも高いとされています。「指定」と「登録」では基準が異なり、文化財としての価値にも大きな差があるのです。

※国の指定有形文化財を「重要文化財」と呼び、その中でも特に文化的価値が高いものを「国宝」と呼んでいます。

文化財になると改修などが勝手にできなくなるって本当?

文化庁が発行している「登録有形文化財建造物のご案内」の5ページより

文化財に対するよくある誤解の1つが、文化財になると改修などが勝手にできなくなる、というものです。あながち間違いだとも言い切れませんが、これはどちらかというと指定有形文化財についての話です。
先にも述べたように、登録有形文化財は、活用を重んずる文化財です。そして、登録にあたっては、建物の外観が重視されるため、内装に限定した改修などの場合には、届出の必要はありません。登録有形文化財の建築物の内部を改修し、オフィスやギャラリーなどとして活用することができるというわけです。なお、外観が大きく変わる場合や移築の場合などは、原則として、現状変更の届出が必要となります。

登録有形文化財(建造物)に登録されるメリットは?

古民家さんぽ
歴史的建造物の街歩きツアーへの関心も高い

登録された時のメリットを3点ご紹介します。

1.優遇措置
・保存、活用に必要な修理等の設計監理費の2分の1を国が補助
・相続財産評価額(土地を含む)を10分の3控除(国税庁通達)
・家屋の固定資産税を2分の1に減税(地方税法)
・敷地の地価税を2分の1に減税(地価税法施行令第17条第3項)

2.国からの指導等
・管理、修理に関する技術的指導
・届出のあった現状変更に対する指導、助言又は勧告
・公開及び公開に係る管理に対する指導又は助言

3.登録証、登録プレートの交付・受理
誰が見ても、歴史上、芸術上、学術上、価値の高いものであることがわかる。

以上のように経済的、専門的なサポートがあります。
さらには、登録されることで、多くの人が訪れる場所となり、商業上の価値も高まっていくでしょう。

歴史的な街並みや建造物を残すためにできることは何?

暗い、寒い、使いづらいなど、古民家が壊される理由はさまざまですが、優遇措置を受けることもできる「文化財登録制度」の活用も、歴史的な街並みや建造物を残すための有効な選択肢の1つになるのではないでしょうか。

宮城県の登録文化財一覧はこちら
https://www.pref.miyagi.jp/site/sitei/touroku171027-index.html

風の沢ミュージアム_古民家びと
旧高橋家住宅(風の沢ミュージアム)

<問合せ先>
古民家びと 早川欣哉(一級建築士・宮城県ヘリテージマネージャー)
2011年度から当ウェブメディア「古民家びと」の運営を開始し、宮城県内の歴史的建造物等の実測調査や専門家研修に参加。2020年度、調査・申請をおこなった「旧高橋家住宅(風の沢ミュージアム)」が、登録有形文化財建造物に登録される。
文化財登録に限らず、古民家の調査やリノベーション・リフォームに関する問い合わせもお待ちしています。

〒984-0075 仙台市若林区清水小路6-1 東日本不動産仙台ファーストビル1F
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